ネット上の掲示板やSNSで頻繁に議論を呼ぶのが、「岡山城天守閣エレベーター設置の真相」をめぐる誤認です。一部のブログ等では「外観を損ねるガラス張りエレベーターが外付けされた」「最上階まで車椅子で楽に行けるようになった」といった相反する誤情報が散見されます。
事実を整理すると、エレベーターは外付けではなく天守閣の内部に完全収容されています。昭和41年の鉄筋コンクリート再建時から内部昇降機自体は存在していましたが、今回の令和の大改修に伴い、機器の全面更新とユニバーサルデザインに基づいた動線改良が実施されました。改修によって車椅子利用者やベビーカーを押す家族連れが地下1階の入口から地上4階までスムーズに移動できるようになったのは紛れもない前進です。
しかし、ここに「最上階の壁」が立ちはだかります。天守閣は複合式望楼型と呼ばれる特殊な構造をしており、4階から上の5階・6階(最上階)部分は、上層に向かって床面積が急激に絞り込まれる不等辺五角形の特異な形状をしています。設計関係者の証言や岡山市の検討記録によると、4階より上までエレベーターシャフトを貫通させた場合、建物の耐震コアを破壊するリスクがあるうえ、往時の天守骨格を復元した内部意匠を完全に失ってしまう懸念があったといいます。
結果として、エレベーターは4階で終了し、最上階の天守展望台(6階)へ到達するには、傾斜の急な狭い階段を自力で登らなければならない構造が残されました。現場の案内スタッフは次のように語ります。
「4階までは車椅子でお越しいただけますが、最上階からの旭川と後楽園を見渡す眺望をすべての方にお届けできない点は、案内する側としても心苦しい瞬間があります。その代わり、4階フロアには最上階からの360度パノラマ映像をリアルタイムで体感できるモニターを配備し、情報格差を少しでも埋める工夫を凝らしています」
歴史遺構の真正性をどこまで残し、どこまで現代のバリアフリー基準を適用するか。岡山城が下した決断は、景観保護とアクセシビリティのギリギリの妥協点だったと言えます。