日本糖尿病学会の専門医が在籍する臨床現場や、患者コミュニティ(SNSやQ&Aサイト)の投稿を精査すると、多くの人が共通の「心理的バイアス」に囚われている実態が浮かび上がります。
50代男性の患者は、当時の外来で次のように困惑を語っていました。
「会社の健診でHbA1cが7.8%になり、慌てて毎朝のトーストをやめて、市販のスムージーとグラノーラ、昼は春雨スープに切り替えました。自分では完璧な食事改善のつもりでしたが、3ヶ月後の再検査で数値は8.4%に悪化していました。医師から『一番やってはいけない糖質過多の組み合わせ』と指摘されたときは頭が真っ白になりました」
行動経済学や心理学では、これを「ヘルス・ハロー効果(健康後光効果)」と呼びます。「野菜」「自然派」「ノンオイル」といった好ましい属性がパッケージに強調されていると、その食品に含まれる糖質量や添加物といったネガティブな要素を脳が無意識に見落とし、「いくら食べても安全だ」と過剰摂取に走ってしまう現象です。
糖尿病の食事改善で重要なのは、メーカーの宣伝文句や抽象的なイメージではなく、原材料表示の「炭水化物(糖質)」の絶対量と、食品の物理的形状(固形か液体か、精製されているか未精製か)を冷静に見極めるリテラシーです。