現実の失踪劇が複雑化する背景には、ポップカルチャーが与えた影響も無視できない。完璧な妻の失踪と、その裏に隠された綿密な復讐計画を描いた金字塔的サスペンス・ミステリーといえば、デヴィッド・フィンチャー監督が手掛けた映画『ゴーン・ガール』である。
劇中でロザムンド・パイクが見せた、社会やメディアの先入観を鮮やかに逆手に取る冷徹な狂気。あの映画が世界に与えた衝撃は、事件報道を見る私たちの眼差しそのものを変えてしまった。「被害者」として報道される人物が、実はすべての糸を引く黒幕かもしれないという疑念。現実の捜査現場においても、捜査員たちが映画さながらのシナリオを警戒せざるを得ない時代が訪れている。