映画『冷たい熱帯魚』が鑑賞者の精神を削る最大の要因は、村田役を演じたでんでんの凄まじい怪演にあります。
それまで温厚なおじさん役やコミカルな脇役のイメージが強かったでんでんは、本作で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、国内の映画賞を総なめにしました。彼の演じる村田の恐ろしさは、突然怒鳴り散らすことではなく、「陽気で親切なおじさんの顔をしたまま、極めて事務的かつ楽しそうに人を殺す」という不気味なギャップにあります。
冗談を飛ばしながら淡々と死体を解体し、獲物を罠にかけるような軽快な語り口は、観る者に強烈な認知的不協和を引き起こします。また、主演の吹越満が魅せた「精神が徐々に崩壊していく男」の生々しい憔悴ぶりや、黒沢あすかの常軌を逸した狂気、神楽坂恵の官能と退廃が複雑に絡み合い、スクリーンの向こうから異臭が漂ってきそうなほどの緊張感を生み出しています。