豊橋駅に降り立つと、まず耳に届くのは重厚で風情ある金属音だ。愛知県内で唯一営業を続ける路面電車「豊橋鉄道東田本線」、通称・市電。1925年の開業以来、市民の日常を支えてきたこの路面電車が、いまや全国の鉄道ファンやレトロ建築愛好家を惹きつける主役となっている。
単なる移動手段にとどまらないのが、この市電の面白さだ。季節ごとに姿を変える企画電車はその最たる例。夏には車内で冷えた生ビールを楽しめる「ビール電車」、冬には熱々の鍋をつつく「おでん電車」が走り、予約開始とともに即完売する人気ぶりを見せる。揺れる車窓から暮れゆく豊橋の街並みを眺めつつ杯を交わす体験は、まさに風雅そのものだ。
昭和の面影を残す木造風車両から最新の超低床バリアフリー車両まで、多彩なデザインが同じ線路を交互に走り抜ける光景も実に味わい深い。交通系ICカード1枚でひょいと乗り込める気軽さもいい。1日乗車券を手に入れれば、気の向くままに途中下車する気ままな散策が始まる。