今でこそカフェや個性派ビストロ、ギャラリーが点在し、感度の高い大人が集う街として定着した奥渋谷ですが、2000年代半ばまでは渋谷駅から離れた静かな住宅街兼商店街に過ぎませんでした。その街の風景を一変させる起爆剤となったのが、渋谷区神山町書店としてオープンしたSPBS本店です。
仕掛け人である代表の福井盛太氏は、大手広告会社でのプランナー経験を経て、旧来の出版流通システムに風穴を開けるべくこの地を選びました。当時、都心の大規模書店がフロア面積を競い合っていた時代に、あえて渋谷の中心街から徒歩15分ほど離れた路面店でスタートした試みは、メディア業界に驚きをもって迎えられました。
SPBS本店が提案したのは、新刊やベストセラーを網羅するメガストアではなく、店主や編集者の思想が色濃く反映された奥渋谷本屋のあり方でした。書籍だけでなく、独自のクラフトアイテムや作家の手仕事が並ぶ陳列は、単なる購買スペースを超えて「偶然の出会い」を楽しむ文化の発信拠点として機能し、後に続く奥渋カルチャースポットの礎を築いたのです。