外食市場において「焼き鳥の一番人気部位」として常に首位を争うのが「もも(ねぎま)」です。では、なぜ長年にわたりこの部位が王座に君臨し続けているのでしょうか。その歴史と経緯を紐解くと、日本人の食文化と生化学的な必然性が浮かび上がります。
日本の食肉文化における「ねぎま」の起源は、江戸時代の元禄期にまで遡ります。当時、江戸の町で獲れすぎたマグロの赤身は醤油漬け(ヅケ)として重宝されましたが、脂の乗ったトロ部分は傷みやすく、下魚として捨てられていました。このトロを捨てるのを惜しんだ町人が、手に入りやすい長ネギと一緒に鍋で煮込んだのが「葱鮪(ねぎま)鍋」の始まりです。この「脂っこい具材とネギの香味を合わせる」という味覚の方程式が、昭和初期に庶民の屋台文化として定着した焼き鳥へと応用され、マグロの代わりに鶏のもも肉を挟んだ現在の「ねぎま串」へと進化を遂げました。
科学的見地からも、この組み合わせは完璧な理にかなっています。鶏もも肉の脂に含まれるオレイン酸やリノール酸の濃厚なコクを、長ネギを加熱した際に生成される甘み成分(プロピルメルカプタンなど)と特有の硫化アリルが包み込みます。この香味成分が脂のくどさをリセットし、何本食べても食べ飽きない口内環境を整えるのです。
さらに長年議論が続く「タレと塩、一番人気はどっちか」という問いに対して、大手食肉加工メーカーや各種グルメ意識調査の統計を見ると、全体の約54%が塩派、約46%がタレ派と、ほぼ互角の拮抗を見せています。しかし部位別に見ると明確な傾向があり、もも・ねぎまやせせり、砂肝などの「肉汁の鮮度と歯ごたえを楽しむ部位」は塩が好まれ、かわやつるりとしたつくね、レバーといった「香ばしさと濃厚な味付けが引き立つ部位」はタレが圧倒的な支持を得ています。好みの優劣ではなく、部位の特性に合わせた注文の住み分けこそが、焼き鳥を極める王道です。