2000年代初頭は、ハリウッド全体がCG(コンピュータ・グラフィックス)技術へ急速に傾倒していた時代でした。しかし、バートン監督が選んだ道はまったくの逆でした。「触れることのできる質感こそが、ファンタジーに真の説得力を宿す」という信念のもと、英パインウッド・スタジオに巨大な実物セットを建造させたのです。映画ファンの間で今なお語り草となっているチャーリーとチョコレート工場 撮影秘話の数々は、想像を絶する現場の執念を物語っています。
1. 40匹のリスを半年かけて調教したナッツ選別室
ワガママな令嬢ヴェルーカ・ソルトが欲しがり、最終的にダストシュートへ叩き落とされる「ナッツ選別室」のシーン。椅子に座ったリスたちがクルミを叩いて中身の良し悪しを確かめる場面は、一見するとCG合成のように思えます。しかし、現場ではドッグトレーナーの手によって約19週間にわたり調教された本物のハイイロリス40匹が演技をしていました。
リスは犬などと異なり、複雑な命令を覚えるのが極めて困難な動物です。制作陣は生後間もないリスを集めて専用のブートキャンプを組み、「クルミを手に取る」「机の上で軽く叩く」「良品はコンベアへ、不良品は背後の穴へ捨てる」という動作を根気強く教え込みました。CGが使用されたのは、リスたちがヴェルーカに飛びかかる危険なカットなどごく一部に過ぎません。
2. 78万リットルの人工チョコレートが流れる本物の滝と川
劇中の象徴である「チョコレートの部屋」を流れる巨大な川と滝。これもスタジオ内の特大ステージに約78万リットル(20万ガロン超)の人工チョコレート液を実際に流し込んで撮影されました。水、セルロース、食用色素などを厳密な比率で配合し、本物の溶けたチョコレートと同じ粘度と光沢を再現した特注の液体です。
この撮影には過酷な代償も伴いました。スタジオの強力な照明熱によって、日数を経るごとに原料の有機成分が酸化・発酵し、現場には凄まじい異臭が立ち込めたといいます。キャストやスタッフは鼻を突く悪臭に耐えながら、あの甘く幻想的なシーンを演じ切っていました。
3. ディープ・ロイが1人で165役を演じ分けたウンパルンパ
強烈なインパクトを残す小柄な工場の労働者「ウンパルンパ」。工場内に何百人と存在する彼らは、すべて俳優ディープ・ロイが単独で演じた実写映像をデジタルで複製・合成したものです。ロイは数カ月に及ぶピラティスやダンスの猛特訓を受け、一人ひとりの立ち位置や振り付け、表情の違いを数百テイクにわたって反復して実演しました。その過酷な献身に対し、ギャランティが100万ドルへ増額されたというエピソードも残されています。