魚の煮付けといえば「弱火でコトコト煮込んで中まで味を染み込ませる」というイメージを抱きがちですが、これこそがメバルをパサつかせる最大の原因です。魚の筋肉を構成するタンパク質(主にミオシンやアクチン)は、60℃を超えたあたりから収縮を始め、加熱時間が長引くほど細胞内の水分や旨味エキスを外部へ絞り出してしまいます。
煮汁の中で身の水分が失われれば、繊維が固く引き締まり、口当たりはモソモソとした仕上がりに変わってしまいます。一方、日本料理の現場を取材すると、板前たちが口を揃えるのは「白身魚の煮付けは強火の短時間勝負」という鉄則です。煮汁をグラグラと激しく沸騰させ、その激しい気泡で魚の表面を一気にコーティングすることで、身の内側に肉汁を完全に閉じ込めます。
さらに、下処理の段階で魚体表面に残る微細なぬめりや酸化した脂、血の塊が熱によって凝固すると、生臭みの原因物質であるトリメチルアミンが揮発せず身に定着してしまいます。料亭のようなみずみずしく澄んだ味わいを再現するには、火にかける前の精密なクリーニングと、余計な水分を逃さない加熱コントロールが欠かせません。