竜田揚げという風雅な名称のルーツは、奈良県斑鳩の里を流れる名所「竜田川」にあります。百人一首に収められた在原業平の有名な和歌、「千早ぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」にも詠まれている通り、竜田川は古来より紅葉の名所として知られてきました。
醤油で深く漬け込まれた肉が揚げることで赤褐色(からくれない色)に染まり、その表面に所々白く浮かび上がる片栗粉の模様。このコントラストを、「竜田川の水面に浮かび流れる鮮やかな紅葉」に見立てて命名されたのが「竜田揚げ」の始まりです。大正から昭和初期の割烹や料亭において、料理人の美意識から生まれた日本固有の雅なネーミングでした。
さらに興味深いのは、竜田揚げがかつて国の規格として法的に定義されていた事実です。農林水産省が定めた「日本農林規格(JAS規格)」における調理冷凍食品やチルド食品の品質表示基準において、竜田揚げは次のように厳格に定められていました。
「鶏肉、豚肉又は牛肉を主原料とし、これにしょうゆ、酒類、香辛料等で下味をつけ、片栗粉等のデンプン類をまぶして油で揚げたもの」。
現在では食品表示の一元化に伴い表示基準の個別統合が進みましたが、食品業界や加工調理の現場では、今なおこの「醤油漬け+デンプン衣」というJAS規格の思想が竜田揚げの絶対的なアイデンティティとして継承されています。