「ちょっと何言ってるか分からない」という言葉の原点は、サンドウィッチマンがインディーズ時代から練り上げ、世に広く認知されるきっかけとなった傑作コント「街頭アンケート」にあります。街頭で真面目にアンケート調査を行おうとする調査員(伊達みきお)の前に、怪しげな風貌の通行人(富澤たけし)が現れる設定から物語は始まります。
伊達が「すいません、ちょっと街頭アンケートに答えていただきたいんですが」と声をかけると、富澤は一切の感情を排した低いトーンと死んだような眼差しで、間髪をいれずにこう言い放ちます。
「ちょっと何言ってるか分からない」
あまりにも流暢で明瞭な日本語に対して、真正面から理解を完全拒絶するこの一撃は、客席の意表を突き、爆発的な笑いを生み出しました。しかし、この伝説的フレーズは、最初から緻密に計算されて台本に書き込まれたものではありませんでした。
富澤本人が過去の特別インタビューや著書で明かした証言によると、ネタ合わせの最中、伊達が早口かつ滑舌悪く話した内容が本当に全く聞き取れなかった瞬間があったといいます。その際、富澤が苛立ち紛れに素で返した「ちょっと何言ってるか分からない」というリアルなリアクションに対し、伊達が「お前、何で分かんねぇんだよ!」と即座に突っ込んだことで現場に大きな笑いが起きました。作為的に作られたボケではなく、リアルなコミュニケーションの齟齬から生まれた偶発的な産物だったからこそ、セリフに生々しい説得力が宿ったのです。
このコント内での使いどころは、単なる導入にとどまりません。伊達が丁寧に言葉を言い換えて説明すればするほど、富澤は首を傾げながら同じトーンで「ちょっと何言ってるか分からない」を執拗に繰り返します。相手の説明努力をゼロにリセットする天丼(繰り返し)の力学が働き、観客は「また言った」という快感と理不尽さに引きずり込まれていきます。