痛みの性質が異なる一方で、医療機関への搬送が遅れて命を落とすケースが後を絶たない。その背景には、人間の防衛本能ともいえる「正常性バイアス(自分だけは重病ではないと思い込む認知の歪み)」が横たわっている。
都内の救命救急センターに勤務する専門医の手記には、運ばれてくる心筋梗塞患者の典型的な行動パターンが記されている。「夜間に胸の違和感と病院受診の目安を調べながら、『胃がもたれているだけだろう』『明日の朝まで様子を見よう』と我慢を重ね、朝方に心肺停止状態で家族に発見される事例が後を絶ちません。心筋梗塞による心原性ショックや致死性不整脈は、発症から最初の2時間以内に急激に跳ね上がります」。
特に高齢者や糖尿病を長年患っている患者では、神経障害によって典型的な胸痛を感じない「無痛性心筋梗塞」が一定割合で発生する。「胸は痛くないが、なんとなく息苦しい」「冷や汗が止まらず、吐き気がする」「急に背中や左肩が重だるくなった」といった非典型的な症状をただの体調不良と片付けず、循環器疾患の可能性を想起できるかどうかが生死の分かれ目となる。
【プロの結論】救急車を呼ぶべき人・経過観察でよい人の判断基準
胸部に異変を感じた際、病院選びや通報の判断に迷った場合は、以下の基準に照らし合わせて冷徹に行動を選択してほしい。
【直ちに救急車(119番)を呼ぶべきケース(ためらいは禁物)】
- 胸の中央を象に踏まれているような強い圧迫感が15分以上続いている
- 胸の痛みに加え、冷や汗、吐き気、息切れ、めまい、意識の遠のきを伴う
- 痛みが左腕、左肩、喉、奥歯、背中へと広がっていく感覚(放散痛)がある
- これまでに経験したことがない突然の激痛が走った
【日中に専門外来(循環器内科)を予約受診すべきケース】
- 急ぎ足で歩いたり階段を上がったりすると胸が締め付けられ、休むと数分で治まる
- 決まった時間帯(特に早朝や冷え込む時間)に胸の重苦しさが起きる
- 脈が不規則に飛ぶ感覚があり、立ちくらみを伴う
【近隣の内科・整形外科の通常受診でよいケース】
- 特定の肋骨の隙間を押すと飛び上がるほど痛む
- 深呼吸や体をひねった瞬間にだけ「ピキッ」と一瞬痛む
- 痛みの持続が1秒程度と極めて短く、全身状態は極めて良好である