全国的には「モーニング=名古屋発祥」というイメージが定着していますが、食文化史の調査によると、そのルーツは厳密には名古屋市内ではありません。有力な発祥地として知られるのは、繊維産業で栄えた愛知県一宮市や、東三河の中心都市である豊橋市です。1950年代半ば、ガチャマン景気に沸いた一宮の機織り工場では、織機の激しい騒音を避けて喫茶店で商談や打ち合わせを行う習慣がありました。その際、店主が頻繁に通ってくれる機織り職人への感謝を込めて、朝のコーヒーにゆで卵や落花生を添えたのが原型とされています。
では、なぜ発祥地ではない名古屋駅のモーニングがこれほどまでに有名になり、そして「驚くほど安い価格」を維持できているのでしょうか。そこには名古屋都市圏特有の喫茶文化とシビアなコスト構造が存在します。
地元で長く愛される老舗喫茶のオーナーは、メディア取材の場で次のように背景を明かしています。「名古屋において喫茶店は第二の居間。毎朝通ってくれる常連客の顔をつぶすような値上げやサービスの縮小は絶対にできない」。この「おもてなし精神」と「日常の生活インフラとしての自負」が、原価高騰の局面でもサービスを維持させる強力な力学となっています。
また、ビジネス構造の観点から見ると、名古屋駅モーニングの安さは圧倒的な高回転率と食材の一括仕入れによって成立しています。朝7時から10時半までの約3時間半で、1席あたり3〜4回転する高稼働を実現することで、薄利多売モデルを成立させています。さらに、パンや卵といった基本食材を地域の製パン所や鶏卵業者から安定調達するルートが半世紀以上にわたって確立されている点も、手頃な価格帯を支える強固な基盤です。