勝新太郎が遺した約14億円とも言われる莫大な借金を返済するため、中村玉緒はがむしゃらに働き続けました。明石家さんまとの共演でバラエティタレントとしての才能を開花させ、日本中から愛される存在となった玉緒は、私生活の贅沢を一切捨てて完済を果たします。その一方で、息子・鴈龍太郎の芸能活動を陰ながら支え、自身の個人事務所に所属させて舞台での共演枠を用意し、生活費や住居費の支援を続けていました。
しかし、親の献身的な愛情は、皮肉にも息子の「自立の芽」を摘む結果となってしまいます。事故の痛恨の記憶から抜け出せず、舞台稽古への身の入れ方や私生活に甘えが見られる鴈龍に対し、周囲のスタッフや舞台関係者からの苦言が相次ぎました。当時の一部週刊誌の取材によると、稽古への不参加やモチベーションの低下が重なり、最終的に舞台を降板する事態にまで発展したと報じられています。
「このままでは、自分が死んだ後にこの子はどう生きていくのか」――。80歳を目前にした中村玉緒は、断腸の思いで決断を下します。マンションの家賃援助や小遣いを含む経済的支援の完全打ち切りを通告し、個人事務所からも籍を外しました。世間では「親子の絶縁」とセンセーショナルに書き立てられましたが、その内実は、子どもを一人前の大人として独り立ちさせようとする、母親としての最後の賭けであり、愛情ゆえの突き放しでした。