実店舗が幕を閉じた今なお、なぜこれほどまでに「麻布十番はなぶさ」の名が検索され続けるのか。その答えは、同店が提供していた「地焼き(じやき)」の圧倒的なクオリティと、東京のうなぎ界に投じた強烈なインパクトにあります。
東京の伝統的な江戸前うなぎは、背開きにしたうなぎを白焼きし、じっくりと蒸し器に入れて余分な脂を落とした後、タレをつけて本焼きする「ふっくら・ふわふわ」の食感が王道です。これに対し、はなぶさが貫いたのは、腹開きにしたうなぎを蒸さずに備長炭の強火で一気に焼き上げる関西・中京流の手法でした。愛知県西尾市「三河一色産」の活うなぎにこだわり、職人が炭火の熱と対話しながら皮目を限界までクリスピーに、身の内側には脂のジューシーな旨味を閉じ込める――この職人技が、当時の口コミサイトで4点台前後の高評価を連発した原動力でした。
当時の利用客によるレビューや取材記録には、次のような熱量の高い証言が数多く残されています。
「ひと口噛んだ瞬間に『パリッ』と心地よい破裂音が響き、その直後に極上の脂がじゅわっと広がる。東京の蒸し焼きうなぎでは絶対に味わえない衝撃的な食感だった」
「看板のひつまぶしは、まずはそのまま、次に刻みネギと山葵で、最後は熱々の特製出汁をかけていただく。三者三様の表情を見せ、最後の一粒まで箸が止まらなかった」
甘さを適度に抑えたキレのある秘伝タレと、濃厚なうなぎの脂の調和は、一度体験すると忘れられない中毒性を持っていました。これこそが、閉店から時を経た現在でも「あのはなぶさの味が忘れられない」と語り継がれる最大の要因です。