名取裕子さんが独身を貫いてきた真の背景には、昭和・平成の過酷な芸能界で生き抜くプロフェッショナリズムに加え、長年にわたる壮絶な在宅介護の現実がありました。
過去の自著やテレビのロングインタビューにおいて、名取さんは自身の生い立ちと家族関係について赤裸々に語っています。実母は名取さんが10代半ばの思春期の頃に病気で他界。その後、父が再婚した継母との複雑な関係を抱えながら青春時代を過ごしました。しかし、名取さんはその継母が決して憎めない存在であり、やがて継母が病に倒れた際には、多忙な撮影スケジュールの合間を縫って自ら献身的な介護を引き受けました。
さらにその後、実父が高齢となり重度の認知症を発症。トップ女優として連日のドラマ撮影に追われながら、自宅では排泄の介助や見守り、食事の世話といった過酷な在宅介護を一手に担うことになります。当時の様子について名取さんは後年、以下のような生々しい実感を吐露しています。
「仕事場では華やかな衣装を着て主役を演じ、家に帰れば認知症の父のおむつを替える日々でした。誰かを頼る余裕も、誰かと新しく家庭を築く心の隙間も、当時の私には全く残されていませんでした」
芸能界の仕事は不規則を極め、少しでも穴をあければ多大な損害が発生します。周囲に弱音を吐かず、実父と継母を最後まで自宅で看取った名取さんの生き様は、並大抵の覚悟で真似できるものではありません。結婚を選ばなかったのではなく、「家族の命と責任を背負い、仕事に全身全霊を捧げた結果として独身という生き方を選択した」というのが偽らざる真相です。