『逃げ恥』が名作と呼ばれる最大の要因の一つが、百合ちゃんが口にした台詞の数々にあります。なかでも第10話で、ポジティブモンスターと呼ばれる若き女性社員・五十嵐杏奈から向けられた無自覚なエイジズム(年齢差別)に対する返しは、日本のジェンダー観を揺るがす名場面として語り継がれています。
「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」
若さに価値を置き、年を重ねる女性を見下す発言に対し、怒りで返すのではなく、相手の将来をも思いやりながら放たれた石田ゆり子の逃げ恥での名言は、多くの視聴者の涙を誘いました。自分自身が呪縛から自由であろうとする姿勢が、同世代だけでなく若い世代の心にも深く刺さった瞬間でした。
また、視聴者を大いに沸かせたのが、大谷亮平演じる風見涼太との共演によって描かれた「17歳差の恋」です。イケメンで女性に不自由せず、結婚にメリットを感じていなかった風見が、百合の内面の気高さとチャーミングさに惹かれ、百合もまた不器用ながら風見の誠実さを受け入れていく過程は、連続ドラマ後半の大きな見どころとなりました。
気になる風見と百合のその後ですが、連続ドラマ最終回で見事なハッピーエンドを迎えた二人は、2021年に放送された『逃げ恥 お正月スペシャル』において、また新たな現実と向き合っていました。二人は互いを尊重し合った結果、恋人関係を解消し、「何でも話せる最良の友人」という新しい関係性を選択していたのです。さらにスペシャルでは、百合が子宮体がんを患い、高校時代の同級生である女性(西田尚美演じる花村伊吹)との再会を通じて自立と連帯を深めていく姿が描かれ、単なる恋愛至上主義に回収されない成熟した人生観が大きな称賛を集めました。