世間を戦慄させた声優アイコ事件の経緯は、2013年春頃から東京都内や千葉県の繁華街で「見知らぬ女性と飲食した直後に記憶を失い、現金やクレジットカードを奪われた」という被害届が相次いだことに端を発します。
捜査関係者の証言や当時の防犯カメラ映像によると、犯行の手口は徹底して計算されたものでした。犯人はショートボブのウィッグにフェミニンなワンピースを着用し、アニメキャラクターのような独特の高めの声で「アイコ」と自称。「声優の卵」「声優の仕事をしている」と甘えた口調でターゲットの男性に話しかけ、密室やバー、マンガ喫茶、自宅アパートへと誘い込みました。
最も悪質だったのが、用意周到な睡眠薬混入の手口です。神いっき被告は、事前に通院先などで処方させていたフルニトラゼパムなどの強力な睡眠導入剤をあらかじめ微粉末状に加工。「美容にいい特別なドリンクを作ってあげる」「一緒に一気飲みしよう」などと持ちかけ、缶コーヒーやアルコール類のコップに一瞬の隙を突いて混入させました。被害者が抵抗する間もなく意識を急激に混濁させ、完全な無防備状態に陥れた上で、財布から現金、キャッシュカード、貴金属、スマートフォンなどを奪い去るという手口でした。
警視庁が公開した防犯カメラの静止画には、小柄な女装風の人物が写り込んでおり、当初は「正体不明の謎の毒婦」として全国規模で指名手配されました。2014年に逮捕された際、明かされた犯人の実像は、世間の予想を遥かに超える複雑な背景を抱えていました。