ネット上のイラストコミュニティでは長年、「ポーズをなぞって描くのは手抜き」「トレスは絵描きとしての不正行為である」といった偏見が根強く語られてきました。しかし、これは美術史や商業アニメーションの制作工程を無視した典型的な誤解です。
ルネサンス期の巨匠たちもカメラ・オブスキュラ等の光学機器を用いて現実の投影図を輪郭として写し取っていましたし、現代の第一線で活躍するプロのアニメーターやイラストレーターも、自身で撮影した写真や許諾された著作権フリーポーズ集をベースに作画を行っています。重要なのは「トレスすること自体」の是非ではなく、「利用許諾を得ているか」という権利関係のクリアランスと、「立体構造を咀嚼して線に落とし込んでいるか」という技術的アプローチです。
素材をただ漫然となぞるだけのクリエイターは、素体のわずかな狂いやパースの歪みをそのまま自作に写し取ってしまい、結果として「顔だけが浮いていて身体が死んでいる」奇妙な絵を量産してしまいます。一方でプロは、素材をあくまで「人体構造と遠近法の補助輪」として捉え、自らの作風に合わせて首の角度や肩の入れ方を自在にアレンジします。素材を正しく使い倒すことこそが、作画崩壊を防ぐ最も実践的なトレーニングなのです。