引退後、彼が歩んだ道はバスケットボールのプロリーグでも指導者でもなく、実家を継ぐための板前修業だった。コート上で見せた巨漢の力強さとは対照的に、包丁を握り繊細な桂剥きをこなす手元の技術は、彼がどれほど真摯に次の人生に向き合っていたかを物語っている。この「板前修業」という設定は、単なるコミカルなオチではなく、彼の内面的な成熟を象徴する重要な裏設定だ。
なぜ井上雄彦は彼に板前という道を選ばせたのか。それは、一見すると華やかさとは遠い職人の世界で、黙々と技術を磨く生き様が魚住純の本質と見事に合致しているからだ。コート上で鰈として泥にまみれる覚悟を得た男が、包丁を手に職人としての道を踏み出すストーリー展開には、作者の人間描写に対する深い敬意が込められている。