この病理の歴史は古い。病名の由来となったのは、大豪傑たる劇作家ウィリアム・シェイクスピアが遺した四大悲劇の一つ、『オセロ』である。狡猾な部下イアーゴの奸計にはまり、心から愛する妻デズデモーナの貞操を疑い、自らの手で殺めてしまう悲劇の将軍オセロ。その痛切な姿は、人間の嫉妬が持つ破壊力を残酷なまでに描き出している。
この古典的悲劇に着目し、1955年に医学的概念として定式化したのが、イギリスの精神科医ジョン・トッドだ。彼はパートナーの不貞を頑なに信じ込む病的な嫉妬状態を「オセロ症候群(Othello Syndrome)」と名付け、精神医学の表舞台へと引き上げた。シェイクスピアが戯曲で描いた人間の業は、半世紀以上の時を経て、現代社会の深刻な臨床課題として再定義されたのである。