東京藝術大学をはじめとする美術大学の受験デッサンにおいて、ヘルメスは最も攻略しがいのあるモチーフとして君臨してきた。髪の毛の複雑なディテールと、滑らかな肌の面構成という、対極にある二つの質感を一枚の紙の上に同居させる必要があるからだ。
描き方の鍵は、細かい描き込みに逃げず、まずは大きな塊として光と影の境目を捉える点にある。光源の位置を明確にし、頭部、胸部、台座の空間的な奥行きを掴む。次に、鉛筆や木炭のタッチを微妙に使い分け、髪の毛のシャープな陰影と、胸筋の柔らかい階調を描き分けていく。こうした徹底的な観察プロセスは、現代のアート教育や美術教育においても基礎体力を養う最強のレッスンだ。