なぜ指示が脳にとどまらないのか。その答えの多くは「ワーキングメモリ(作業記憶)」の容量不足にある。
ワーキングメモリとは、入ってきた情報を一時的に脳内に保持しながら処理する、いわば「脳の机の広さ」だ。大人のADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つ人の多くは、この机が極端に狭い、あるいは整理整頓が難しい状態にある。
上司が「Aを処理してからBに回し、そのあとCさんに連絡して」と口頭で指示を出した瞬間、定型発達の脳なら自動的に優先順位をつけて整理する。しかし、ワーキングメモリに制限がある脳では、最初の「A」を聞いた時点で容量が埋まり、続く「B」と「C」の情報は溢れ落ちてしまうのだ。これを周囲が「話を聞いていない」「覚える気がない」と捉えてしまう点に、構造的なギャップが存在する。