「浜辺を歩いていたら、異様な匂いのする軽石のような塊を見つけた」という相談は、日本国内の海洋博物館や鑑定機関にも頻繁に持ち込まれます。しかし、専門家の鑑定現場から聞こえてくるのは、厳しい現実です。
国内の漂着物学会や専門分析機関のデータによると、持ち込まれる「自称・龍涎香」の99%以上は、船から投棄されたパーム油の固化物、工業用パラフィンワックス、発泡スチロールの溶融ゴミ、あるいは動物の死骸の脂肪塊です。一攫千金を夢見て持ち込まれた塊のほぼすべてが、廃棄物としての処理を余儀なくされています。
もし海岸で疑わしい物体を発見した場合、現場で検証可能な科学的判断基準が存在します。
- 比重試験(海水浮力):海水(比重約1.025)にしっかり浮くかどうか。沈む石や泥の塊は即座に対象から外れます。
- ホットニードルテスト(熱針試験):熱した待ち針や金属線を表面に押し当てた際、ロウのように瞬時に溶けて黒褐色のタール状液体が染み出すか。その立ち上る煙に「甘いウッディ調やムスクに似た香気」があるかが試されます。刺激的なプラスチック臭や油煙臭がした場合は化学ゴミです。
- 溶剤溶解度:温めた無水エタノールに削りかすを入れた際、成分が綺麗に溶解するかどうか(プラスチックや鉱物油は容易に溶けません)。
なお、仮に日本国内の海岸で本物の龍涎香を拾得した場合、法的な取り扱いにも注意が求められます。海岸の漂着物は法意上「占有離脱物(遺失物)」に該当するため、法的手続きを経て所有権を確定させる必要があります。また、輸出入に関しては絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約 / CITES)の適用対象となるケースがあり、国ごとに売買基準が厳格に分かれている点も看過できません。