首都圏の狂騒を抜け、北部の険しい山岳地帯へ向かうと、光景は一変する。霧深いコルディリェーラ山脈に広がるのは、2000年の歳月をかけて先住民イフガオ族が素手と農具だけで切り拓いたフィリピン・コルディリェーラの棚田群だ。「天国への階段」と称されるこの世界遺産は、単なる観光地ではなく、今も人々が生活を営む生きている文化的景観である。
しかし、過疎化や気候変動による崩落など、この壮大な景観が直面する課題は少なくない。標高1000メートルを超える集落で出会った古老は、ルソン島の山々に刻まれた先祖の智恵をいかに次世代へ手渡すか、静かな口調で語ってくれた。近代化の波が押し寄せるなかでも、コミュニティ主導の保全活動が新たな希望を生み出している。