あの日、インディラ・ガンディー国際空港を離陸したサウジアラビア航空763便(ボーイング747-100B型機)は、312名の乗員乗客を乗せて順調に上昇を続けていた。一方、同空港への着陸態勢に入っていたカザフスタン航空1907便(イリューシンIl-76型機)には37名が搭乗しており、チャーター便として同地に近づいていた。
当時、デリー周辺の空域は軍用空域の制限により、離陸機と着陸機が同一の航路(コリドー)を対向して使用せざるを得ない構造的欠陥を抱えていた。高度指示を守り、安全なすれ違いが行われるはずだった空で、目視不能の雲中飛行という条件も相まって、運命のカウントダウンが静かに始まっていたのである。