デビュー曲『箱根八里の半次郎』で鮮烈なデビューを飾って以来、氷川きよしは長年「爽やかな好青年」「演歌界のプリンス」としてのパブリックイメージを徹底的に求められてきました。しかし、関係者の証言や当時の手記によると、求められる「男らしさ」と本来の自己認識との乖離に、20代から激しい苦悩を抱え続けていたとされています。
ネット上で「オネエ化した」「おかまになったのではないか」と騒がれ始めたのは、2010年代後半のことです。アイラインを強調したメイク、中性的な私服スタイル、しなやかな身のこなしがメディアに露出するたびに、世間には大きな衝撃が走りました。しかしこれは突発的な変化ではなく、40歳という節目を目前にして「残りの人生を嘘偽りのない自分で生きたい」と決断した、必然的なアイデンティティの解放でした。
本人は後のインタビューで、「小さい頃から男らしくしなさいと言われるのが本当に辛かった」「きよしという記号を演じることに限界が来ていた」と語っています。世間が面白半分に貼った「オネエ」というラベルは、実際には一人の表現者が社会的役割の鎧を脱ぎ捨てたプロセスの表出に他なりません。