漢字の成り立ちや言葉の響きが招く錯覚は恐ろしい。「気が置けない」の「置く」は、心の中に壁や隔てを置く、つまり「気兼ねする」「警戒する」という意味を持つ。したがって、それを否定する「置けない」は「気兼ねする必要がない=心から許し合える」という意味になる。言語学者の分析によれば、「気を許せない」「気が抜けない」といった類似表現のネガティブなニュアンスと混同され、逆の意味で定着してしまったという。
特にZ世代やα世代と呼ばれる若い層では、この傾向が顕著だ。日常のコミュニケーションがテキストメッセージ中心となり、文脈を読む負担が増えた結果、「気を置く(注意を払う)ことができない(から危険)」という独自の解釈がひとり歩きを始めた。言葉の意味が変質する背景には、常に誰かの目を気にしながらオンライン空間を生きる現代人の慢性的な緊張感が見え隠れしている。