まだ街の明かりが灯りきらない早朝。厨房では静かに火が起され、大きな鍋から豊かなダシの香りが漂い始める。腕を振るうのは、故郷の味を日本で忠実に表現し続ける黄さん(店主・シェフ)だ。「台湾料理の本質は、家族の健やかな暮らしを願う母の愛情にあります。無駄な飾り気は不要。素材が持つ潜在能力を極限まで引き出すことだけに集中しています」と、仕込みの手を止めることなく真摯に語る。
話題の「台湾家庭料理 黄さんの家」で提供される料理には、機械任せの工程が一切ない。豚肉のカット一つをとっても、肉の繊維方向や脂の乗り具合を目視で確認しながら包丁を入れる。火加減の微調整、香辛料を投入するタイミングなど、すべては長年培われた五感の記憶に委ねられている。この気の遠くなるような手作業の積み重ねこそが、食べた者を唸らせる奥行きを生み出している。