台風情報を取り巻くネット上の言説には、命に関わるいくつかの危険な誤解が存在します。その最たるものが「台風の進路予想円の中心を通らなければ大した被害は出ない」という思い込みです。
予報円とは「台風の中心が70%の確率で入る範囲」を示した円に過ぎず、台風の大きさや強風域の広がりそのものを表すものではありません。さらに、台風には構造上の「非対称性」があります。進行方向に向かって右側は、台風自体の風に周囲の一般風(偏西風など)が加算されるため風速が格段に強まる「危険半円(危険半球)」となります。仮に進路が本州の南海上を東へ抜けたとしても、日本列島が台風の左側ではなく危険な右側に入った場合、沿岸部を中心に凄まじい暴風被害に見舞われます。
もう一つの盲点は、台風本体から数百キロ離れた場所で突発的に猛烈な雨が降る「アウターバンド(外側降雨帯)」と「前線刺激」のメカニズムです。中心がまだ沖縄や九州の遥か南にある段階でも、台風が送り込む超高温・多湿の南風が本州の山脈に衝突することで、突如として線状降水帯が発生し、土砂崩れや河川の氾濫を引き起こします。「まだ台風が遠いから大丈夫」という油断こそが、人的被害を生む最大の引き金となっています。