歴史的な変遷と並び、近年の検索市場で「誕生 鮨」と打ち込むユーザーの関心を集めているのが、インターネット上で拡散を続ける「誕生鮨(誕生寿司)」という現象である。誕生花や誕生石と同様に、1年365日(うるう年を含む366日)のすべての日付に固有の寿司ネタと「鮨言葉(骨言葉)」が割り振られているというものだ。
情報元となっているWebサイト「お祝い品.com」や「Osushi Studio」などのまとめ記事によると、例えば1月1日は「数の子(鮨言葉:子孫繁栄)」、特定の日には「大トロ(鮨言葉:華やかな人生)」や「穴子(鮨言葉:誠実な絆)」といった意味づけがなされており、10代から30代の若年層を中心に「自分の誕生日のネタは何だろう」「推しのアイドルの誕生鮨を食べてお祝いする」といったSNS投稿が相次いでいる。
だが、この「誕生鮨」には古くからの歴史的・民俗学的根拠が存在するのだろうか。ネット上の都市伝説を追究したブロガーの検証記録(『Nakarの閑話ブログ』など)や、全国すし商生活衛生同業組合連合会などの業界資料を精査したところ、驚くべき事実が判明した。
結論から言えば、誕生鮨には江戸時代や伝統的な水産業界に由来する公的な歴史的根拠は一切存在しない。
Googleの検索インデックスを遡っても、誕生石が何十ページにも及ぶ膨大な文献・宝飾業界の公式見解(1912年の米国宝石商組合の制定など)を持つのに対し、「誕生鮨」という単語は2010年代半ばまでネット上にもほぼ現れず、検索ヒット件数も数ページ程度に留まっていた。特定のギフト系Webサイトや個人のアイデアが発端となり、SNSの拡散力によって「あたかも昔からある日本の祝い文化」であるかのように自然発生的に定着したのが実情である。
しかし、根拠が現代の創作だからといって、この現象を単なる偽情報として切り捨てるのは早計だ。日本人は古来より、語呂合わせや縁起担ぎ(鯛=めでたい、数の子=子孫繁栄、海老=腰が曲がるまで長寿)を食に託して楽しんできた民族である。出所不明のネット発祥ミームであっても、それが贈り物を選ぶきっかけや、大切な人の誕生日を祝うコミュニケーションとして好意的に受容されている点に、現代のデジタル食文化ならではの柔軟な生命力が見て取れる。