アダム・リッポンの名をフィギュアスケート史に不滅のものとした技術的代名詞が、通称「リッポンルッツ(Rippon Lutz)」です。通常は腕を胸の前で交差させて跳ぶルッツジャンプにおいて、踏み切りから空中姿勢に至るまで両腕を頭上にピンと真っ直ぐ伸ばして跳ぶこのバリエーションは、当時の採点基準(GOE加点)に劇的なインパクトを与えました。
軸を乱しやすく圧倒的な体幹の強さと空中感覚が要求されるこの跳躍は、単なる難度上げではなく、音楽との調和や視覚的芸術性を極限まで高めた芸術品でした。その革新的な跳躍姿勢は、後にエフゲニア・メドベージェワやカミラ・ワリエワをはじめとする世界のトップスケーターたちが両手タノジャンプをプログラムに取り入れる先駆けとなりました。
引退後に本格始動したフィギュアスケート振付師としての功績も見逃せません。盟友であるマライア・ベルのコーチ兼振付師として彼女の才能を開花させ、2022年全米選手権優勝、北京五輪トップ10入りへと導いた手腕は、振付師としての彼に対する世界的な評価を決定づけました。音符の隙間に感情を吹き込むリッポンのプログラミングは、現在のフィギュアスケート界においても貴重な財産です。