かつての尼湯を肌で知る古参の温泉ファンと、現在の月岡温泉を訪れる旅行者の声には、明確な意識のコントラストが浮かび上がります。
尼湯の現役時代を記憶する60代男性は、当時の様子を次のように振り返ります。
「扉を開けた瞬間に鼻腔を突くアブラと硫黄の混ざった強烈な匂い。熱めの湯に体を沈めると、皮膚が一瞬でキュッとなるような感覚があり、上がった後は何時間も汗が引かなかった。石鹸の泡がまったく立たないほどの濃厚な泉質で、床は析出物でヌルリとしていた。あんな本物の湯は、近代的な施設では二度と味わえない」
一方で、近年のネット上の口コミやSNSにおける「湯足美」「美人の泉」の評価は、全く異なる価値軸で絶賛されています。
「浴衣姿で温泉街を散策しながら、無料で名湯の足湯に入れるのが最高。エメラルドグリーンの色が本当に写真映えする」「美人の泉はシャワーやロッカーがしっかりしていて、湯上がりの肌がスベスベになる。日帰り旅行の立ち寄りにちょうどいい」
失われた鄙びた秘湯情緒を惜しむマニアのノスタルジーと、清潔感や気軽さを求める一般観光客の満足度。このギャップこそが、共同浴場が辿った歴史のリアリティを物語っています。