飲食店の厨房や一般家庭の調理現場における生の声を集積すると、「ほんだし」と一般的な「だしの素」の間には、熱を加えたときの香りの揮発速度に明らかな差が確認できます。現場で腕を振るう和食料理人は次のように指摘します。
「ほんだしは、お椀によそった瞬間の立ち上るかつおの香りが際立っている。一方で、煮込み料理のようにグラグラと長時間加熱を続けると、せっかくの香気成分が飛んでしまう弱点もある。逆に、昔ながらのシマヤなどのだしの素は、香りのピークこそ穏やかだが、煮込んでも味がブレにくく、根菜などの素材と一体化しやすい」(都内和食店店主)
この特性を最も活かせるのが、日常の食卓を支えるみそ汁の黄金比です。家庭で味噌汁を美味しく仕上げるための基本比率は以下の構成が指標となります。
- 水(または湯):300ml(約2杯分)
- 顆粒だし(ほんだし等):小さじ2/3(約2g)
- 味噌:大さじ1強(約18〜20g)
ここで極めて重要な調理科学的ポイントは、「だしの投入タイミング」です。香りの華やかさを売りにする「ほんだし」を使用する場合、具材を煮る段階で半量を入れ、火を止めて味噌を溶き入れた直後、あるいは仕上げの直前に残り半量を加える「二段階投入」を行うことで、料亭の一番だしのような芳醇な薫煙香を再現できます。一方、一般的な「だしの素」を使う場合は、最初から具材と一緒に煮含めることで、具材の内部までアミノ酸の旨味を浸透させることが可能になります。
また、近年利用者が急増している白だしとの違いにも注意を払う必要があります。白だしは液体であり、白醤油やみりんですでに塩味と甘味が完成された複合調味料です。味噌汁に顆粒だしの感覚で白だしを大さじ単位で投入してしまうと、味噌の塩分と重複して極端な塩分過多を引き起こします。汁物を濁らせず上品に仕上げたい吸い物や茶碗蒸しには白だし、味噌の風味を引き立てたい汁物にはほんだし等の顆粒だしを選択するのがセオリーです。