連載当時、読者に凄まじい衝撃と阿鼻叫喚をもたらしたのが「フォス以外の全キャラクターの月人化」という展開でした。ボルツ、ダイヤ、ルチル、果てはシンシャに至るまで、地上の宝石たちは次々と月へと渡り、月人化手術を受けて享楽的な日々を謳歌します。
フォスが地上で苦悶と孤独の一万年を過ごす間、かつての仲間たちは月の楽園で記憶をリフレッシュし、歌い踊る日々を過ごしていました。この圧倒的な不条理に対し、フォスが怒りによって月人を滅ぼす「復讐劇」を予想した読者も少なくありませんでした。
しかし、一万年の時を経て覚醒したフォスが下した決断は、「すべての月人(元宝石・元アドミラビリス族含む)を等しく祈りによって無へと還す」という完全な救済でした。復讐でも破壊でもなく、ただ彼らが望んでいた「消滅と解放」を淡々と叶えたのです。自分を裏切り、孤独に追いやった存在すらも無条件に解脱へと導くその姿は、まさに執着を手放した究極の利他であり、市川春子氏が提示した深遠な救済の真相でした。