ネット上のQ&AサイトやSNSでは、「ピカソはデッサンが下手だから崩して描いたのではないか」「子供の落書きと何が違うのか」という疑問が今なお散見されます。しかし、一次資料や幼少期のスケッチ記録を見れば、この言説が完全な誤解であることは明白です。
ピカソは美術教師であった父親の英才教育を受け、14歳にしてバルセロナの高級美術学校の編入試験(通常1ヶ月かける課題)をわずか1日で仕上げ、満場一致で合格するほどの圧倒的なデッサン力を完成させていました。ピカソ自身が生前語った「ラファエロのように描くには4年かかったが、子どものように描くには一生かかった」という言葉は、古典的な超絶技巧を完璧に習得した人間だけが到達できる境地を端的に物語っています。
また、よく混同されるキュビスムとシュルレアリスムの違いについても整理しておく必要があります。キュビスムは「知性・論理・構造」に基づき、現実の物質を多角的に分析・構築する極めて理知的な運動です。一方、1920年代半ばから台頭したシュルレアリスム(サルバドール・ダリやルネ・マグリットなど)は、フロイトの精神分析の影響を受け、「夢・無意識・非合理」の世界を写実的あるいは幻想的に描く運動です。アプローチの哲学が根本から異なっています。