心臓手術において不可欠な人工心肺装置ですが、生体にとって「人工の管に血液を通す」という行為そのものが極めて非日常的な侵襲を伴います。そのため、いくつかの重大な合併症リスクが存在します。
- 脳梗塞・微小塞栓症:大動脈の石灰化プラークがカニューレ挿入時に剥がれたり、回路内で生じた微細な気泡や血栓が脳血管へ飛散することで引き起こされるリスク。
- 全身性炎症反応症候群(SIRS):異物である人工回路に血液が大量に接触することで免疫系が刺激され、術後にサイトカインが過剰放出されて発熱や血圧低下を招く現象。
- 出血傾向と溶血:長時間の機械的ストレスによる赤血球の破壊(溶血)や、血小板の減少、抗凝固薬の影響による術後止血の難化。
こうしたリスクを低減するため、現代の手術では回路表面に生体適合性の高いヘパリンコーティングを施し、フィルター性能を極限まで高めたシステムが標準採用されています。近年の心臓血管外科手術における術後生存率は95%〜98%以上と極めて高い水準を維持しており、一時的なせん妄などの後遺症についても、周術期管理の徹底によって早期回復が図られています。