読者の間で長年最大の関心事であり続けているのが、一条ゆかりの現在の生活と創作活動のリアルな状況です。2010年に長編『プライド』が完結して以降、新たな長編ストーリー漫画の連載が途絶えていることから、ネット上では「事実上の完全引退」「深刻な病気で療養中なのではないか」といった憶測が一人歩きしてきました。
結論から整理すると、彼女は「漫画家としてのストーリー執筆」には明確な区切りをつけつつも、文化人・エッセイストとしての発信活動を精力的に継続しています。完全な引退宣言こそ正式に出していないものの、本人が自著や各メディアのインタビューで語っている通り、ストーリー漫画の現場からは潔く退く判断を下しました。
引退説と病気の噂に直結した決定的な要因は、本人が包み隠さず告白してきた眼の疾患(緑内障)と身体的負担です。一条ゆかりはかつての手記において、緻密極まる作画を維持し続ける過程で視力が著しく低下し、視野の一部が欠損する緑内障の手術を受けた事実を明かしています。さらに、長時間の机上作業による重度の腱鞘炎や首・腰の慢性痛も重なりました。
関係者への取材や当時のインタビュー資料を紐解くと、彼女は「アシスタントに背景や仕上げを任せる割合を増やしてまで、自分の名前で漫画を描き続ける気はない」「定規を当てても線が歪んで見えるようになり、自分が思い描く完璧な美しさを紙の上に再現できなくなった」と述懐しています。つまり、病気で倒れて活動不能になったのではなく、「表現者としての水準を保てない妥協を許さない」という誇り高い美学が、漫画の筆を置かせた真の動機でした。
2026年現在も、公式な原画展の監修やエッセイの執筆、文庫解説、特別対談などで時折見せるその姿は健在であり、鋭い舌鋒と周囲を包み込む豪胆なユーモアは少しも失われていません。