プールの水には衛生管理基準に基づき、0.4〜1.0mg/L程度の遊離残留塩素が常に含まれています。この塩素こそが、水着の繊維を蝕む最大の要因です。一般的なフィットネス水着や本番用レース水着の多くには、伸縮性を出すために「ポリウレタン」という弾性繊維が15〜30%前後編み込まれています。しかし、ポリウレタンは塩素と化学反応を起こして分子結合が破壊され、急速に脆化・破断していく弱点を持っています。数ヶ月で生地が透けてきたり、白い粉のようなものが出てきたり、ゴムが波打って伸び切ってしまうのは、典型的なポリウレタンの加水分解・酸化劣化の現象です。
対照的に、練習用水着が塩素に強い理由は、劣化の主因であるポリウレタンを一切使わないか、極限まで減らしている点にあります。近年の主流は、異なる性質のポリエステルを張り合わせた特殊な「複合ポリエステル繊維100%」の生地です。ポリエステル自体はプラスチック由来の合成繊維であるため、水中の塩素に対して極めて強固な耐性を誇ります。従来のポリウレタン混紡水着が週3回のハードな練習で約2〜3ヶ月で寿命を迎えるのに対し、耐塩素ポリエステル100%の練習用水着は1年以上の連続使用にも平然と耐えうる耐久性を誇ります。
ここで多くのスイマーが混同しがちなのが、競泳水着と練習用水着の違いです。公式大会で使用されるレース用水着は、100分の1秒を削るための「極薄・超軽量・水冷え防止・高着圧」を最優先に設計されており、生地の耐久性は割り切られています。極端な例では数レース泳ぐだけで撥水性や締め付け力が落ちることも珍しくありません。一方の練習用水着は、日々の過酷な反復トレーニングに耐える「タフさ・生地の厚み・摩擦への強さ」を第一義に作られています。「速く泳ぐための水着」と「強くなるために着倒す水着」という設計思想の決定的な違いを把握することが、失敗を避ける第一歩です。