心理学の世界において、この2つの概念を最も鋭利に対比させたのがアルフレッド・アドラーです。日本でも名著『嫌われる勇気』などを通じて広く認知されたアドラー心理学の信用と信頼の理論は、人間関係の悩みを根本から解消する視座を提供しています。
アドラー心理学では、信用を「条件付きで相手を信じること」と定義します。銀行が融資の際に担保を取るように、「裏切らないという確証があるから信じる」「実績があるから付き合う」という態度は、相手そのものを信じているのではなく、付随する条件を信じているに過ぎません。これはビジネスの契約関係としては健全ですが、人間関係の根底に置くと「条件が崩れたら即座に関係が切れる」という疑心暗鬼を生み出します。
これに対し、アドラーが推奨する信頼とは「いかなる条件もつけず、無条件に信じること」を意味します。相手が自分を裏切るかどうか、成果を出すかどうかといった相手側の行動はコントロールできません。アドラー心理学の根幹である「課題の分離」に照らせば、相手が期待に応えるかどうかは「相手の課題」であり、それでも信じるかどうかだけが「自分の課題」です。
裏切られるリスクを恐れて条件(信用)ばかりを要求する人間関係は、常に相手を監視し、品定めする緊張感を強います。心理的バウンダリー(境界線)を適切に保ちながら、「信じるというリスクを自分が引き受ける」という覚悟を決めたときに初めて、心理的安全性に満ちた真のパートナーシップが芽生えるのです。