本章段最大のクライマックスであり、読者が最も疑問を抱くのが「なぜ一同は大笑いしたのか」という点です。ここには、平安貴族社会における高度なレトリックと、姉弟ならではの阿吽の呼吸が隠されています。
隆家は、自分が手に入れた扇の骨を「世になきもの(この世に存在しないほど珍しいもの)」と最大限の賛辞を並べて自慢しました。これに対し中宮定子は、即座に「さらば、くらげのなごりなりけむ」と返します。クラゲには当然ながら骨が存在しません。つまり「この世に骨がないもの=クラゲ」という共通認識をフックにして、「あなたが手に入れた『この世にない骨』とは、骨のないはずのクラゲの骨だったのですね」と軽やかに切り返したのです。
この定子の機知に対し、隆家は恥じ入るどころか「これは隆家が言はむとす(その秀逸な冗談は、私が先に言おうと思っていたのに、姉上に先を越されてしまった!)」と大笑いします。自分の大言壮語を逆手に取った姉の圧倒的なセンスに脱帽しつつ、負け惜しみを交えて場を沸かせる隆家の屈託のないキャラクターが、サロン全体を温かい笑いで包み込みました。知識を誇示するのではなく、言葉の綾を捉えて場を和ませる知的なユーモアこそが、この笑いの真相です。