日本の精神医療現場において、入院形態の基盤となっているのが精神保健福祉法です。その第20条に規定されている「任意入院」は、患者本人が治療の必要性を理解し、自らの同意書を提出して病棟に入る形式を指します。本人の承諾を前提とする以上、いつでも自由に退院できるのが原則であり、これが一般病棟における入院と同一の権利構造と解釈されるゆえんです。
にもかかわらず、「退院を申し出たのに退院できなかった」という声が後を絶たない背景には、同法第21条第3項に明記された任意入院退院制限72時間という例外規定が存在します。患者から退院の申し出があった際、管理者は直ちに退院させなければならないとされつつも、精神保健指定医の診察によって「医療及び保護を継続しなければ本人の健康や生命に著しい支障が出る」と判断された場合に限り、退院を最長72時間(特定医師の場合は12時間)保留できる法制上の権限が与えられているのです。
厚生労働省の検討会資料や医療観察現場のデータによると、この措置は「衝動的な希死念慮の再燃」や「躁状態による危険行動」から患者本人を守るための緊急避難的措置と位置づけられています。しかし当事者から見れば、「合意の上で入ったはずなのに閉じ込められた」という心理的裏切りに映るケースが多く、これがネット上で「任意入院は自由に出られない罠がある」という都市伝説的な噂へと増幅されているのが実情です。