浴室をいくら磨いても数日で元通りになってしまう最大の理由は、私たちが相手にしている敵の性質を根本から見誤っている点にあります。一般に「赤カビ」と呼ばれているピンク色のヌメリの正体は、生物学上カビ(糸状菌)ではなく、「ロドトルラ(Rhodotorula)」と呼ばれる酵母菌(真菌類の一種)です。
ロドトルラ菌は、空気中や水道水、土壌など身の回りのあらゆる環境に常に浮遊している常在菌です。この菌が水分のある場所に付着し、皮脂汚れや石鹸カス、水垢などを栄養源にして爆発的に細胞分裂を繰り返すことで、私たちが肉眼で確認できるピンク色のコロニー(集合体)を形成します。ピンク色に見えるのは、ロドトルラが紫外線などのダメージから自らを守るために「カロテノイド」という赤い色素を体内に蓄えているからです。
ここで知っておくべき決定的な事実は、黒カビの10倍以上とも言われるロドトルラの驚異的な繁殖スピードです。一般的な黒カビ(クラドスポリウムなど)が胞子から発芽し、菌糸を伸ばして肉眼で見えるサイズに成長するまでには数日から1週間以上かかります。一方でロドトルラ菌は、条件さえ揃えばわずか24時間から48時間で目に見えるピンク色の塊へと急成長します。
多くの人が「スポンジやブラシでこすり落として満足」してしまいますが、これは表面に溜まった色素と菌の塊を物理的に削り取ったに過ぎません。目に見えない微細な菌体はタイルの目地や樹脂素材の微小な凹凸、コーキングの隙間にしっかりと生き残っています。水分が残っている限り、生き残った菌が半日から1日で再び分裂を始め、わずか2〜3日で再びピンク色に逆戻りしてしまうのです。これが、何度掃除してもすぐに赤カビが復活する科学的なカラクリです。