SNSや知恵袋などで散見される最大の誤解が、「完全に骨の中に埋まっていて見えないなら、細菌が入らないから一生抜かなくても安全」という言説です。これは医学的に極めて危険な思い込みです。
第一に、歯肉と骨は加齢とともに数ミリ単位で退縮(痩せる)していきます。20代のころは完全に埋まっていた親知らずも、40代・50代になると骨が薄くなり、口腔内と交通して突然感染を起こすケースが頻発します。
第二に、完全に骨の中に埋没している親知らずの周囲には、歯を作っていた組織の名残である「歯嚢(しのう)」が存在します。これが時間の経過とともに液体を溜め込み、含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)と呼ばれる良性腫瘍のような袋を形成することがあります。嚢胞が巨大化すると顎の骨を内側から溶かし、最悪の場合はわずかな外力で下顎骨骨折を引き起こす危険性さえあるのです。
「痛くなってから抜けばいい」という考え方も大きな落とし穴です。激しい炎症が起きている真っ最中は、局所麻酔薬の成分(弱アルカリ性)が生体内の酸性炎症環境で中和されてしまい、麻酔が極めて効きにくくなります。激痛に耐えながらの過酷な手術を避けるためにも、炎症のない平穏な時期に計画的に抜歯することが推奨されます。