1986年にリリースされた名盤アルバム『36.5℃』において、サウンドプロデュースを手掛けたのが甲斐よしひろだった。甲斐バンドで日本のロックシーンを牽引していた彼とのコラボレーションは、当時の音楽ファンに大きな衝撃を与えた。中島みゆきが持つ劇的な歌唱表現に対し、甲斐は重厚でエッジの効いたロックのアプローチを惜しみなく注ぎ込んだ。
スタジオ作業では、ボーカルの吐息一つ、ギターのリフ一音に至るまで徹底的なこだわりが貫かれた。従来のしっとりとした情念ではなく、ビートにのせて叩きつけるようなボーカルスタイルを引き出したのは、甲斐よしひろの鋭いディレクションがあってこそだろう。フォークロックの枠組みを超え、牙を剥くようなエレクトリック・サウンドが完成した瞬間であった。