物語のクライマックス、人間界へ帰還したハルは、別れ際に思い切って自らの気持ちを伝えます。
「バロン、私バロンのこと好きになっちゃったかも」
それに対し、バロンは優しく微笑み、「フッ…ハルのその素直なところが私も好きだよ」と答え、決して曖昧に濁すこともなく、しかし少女の純粋な好意を傷つけることもなく受け止めます。そして「もしハルが本当に私たちを必要としたら、猫の事務所の扉はまた開くだろう。その時までしばしの別れ!」と言い残し、風と共に去っていきます。
二人が安易な恋人関係に発展しない背景には、ハルの成長物語としての着地だけでなく、バロンの心に存在する生涯の恋人「ルイーゼ」の存在があります。
『耳をすませば』で明かされた裏設定によると、バロンには同じ工房で作られた貴婦人の猫人形「ルイーゼ」という対になるパートナーが存在しました。しかし、第二次世界大戦の混乱期、地球屋の西司朗と現地の友人が別々に買い取った後、戦禍によってルイーゼの行方は永久に分からなくなってしまいました。バロンは今もなお、世界のどこかにいるルイーゼを静かに想い続けているのです。
この「失われた恋人への不変の誠実さ」を胸に秘めているからこそ、バロンの佇まいには底知れない深みと哀愁が宿り、ハルに対しても一人の女性として敬意を払いつつ、決して一線を越えない高潔さが保たれています。