これまで長年、「体温が高い人」「太っている人」「汗っかき」が刺されやすいと大雑把に語られてきましたが、皮膚常在菌解析の進展によって、より決定的な要因が特定されました。それが足の裏の常在菌のバランスです。
かつて日本の高校生が独自の研究で突き止め、米国の科学コンテストで高い評価を受けたことで世界的な注目を集めたこの現象は、現在でも防虫研究の極めて重要な基盤となっています。研究データによると、蚊に刺されやすい人の足の裏には多種多様な常在菌が存在し、皮脂や汗のアミノ酸を分解する過程でイソ吉草酸などの短鎖脂肪酸を多く産生していることが判明しています。
蚊にとって、この短鎖脂肪酸の臭気は「近くに暖かい血液を持つ宿主がいる」ことを確信させる強烈な着陸トリガーです。一方で、蚊に刺されない人の特徴を調べると、足の裏の常在菌の種類が比較的シンプルで、蚊を狂乱させる特定の脂肪酸の揮発量が極めて微量であることが分かっています。足が不潔であるかどうかという主観的な問題ではなく、皮膚マイクロバイオーム(細菌叢)の組成そのものが、蚊に対するステルス性能を左右しているのです。
さらに、体温と二酸化炭素の排出量も無視できません。基礎代謝が高く、呼気中の二酸化炭素濃度が濃い人や、皮膚表面温度が36度台後半で安定して放熱している人は、遠距離から蚊を呼び寄せます。逆に、血流が穏やかで皮膚温度の過剰な上昇がない人は、蚊の赤外線受容体(熱センサー)から逃れやすくなります。