動脈硬化性疾患に対する薬物療法は、過去数年間でパラダイムシフトを迎えました。日本循環器学会および欧米の主要ガイドラインが改訂を重ねる中、低用量アスピリン療法2026年最新ガイドラインにおける処方方針は、「二次予防の徹底」と「一次予防の慎重化」という二極化の傾向をより鮮明に打ち出しています。
かつては「動脈硬化が進んだ高齢者なら、念のためにアスピリンを飲んでおけば脳梗塞の予防になる」と考えられていた時代がありました。しかし、数万人規模の臨床試験(ASPREE試験やARRIVE試験など)の追跡調査によって、一度も脳梗塞や心筋梗塞を起こしたことがない人(一次予防)に対する漫然とした投与は、心血管イベントを減らすメリットよりも、頭蓋内出血や重篤な消化管出血といったデメリットが上回ることが明確に立証されたのです。
【プロの結論】服用を継続すべき人・慎重な見直しが求められる人の判断基準
客観的な医療エビデンスに基づき、バイアスピリンの服用が推奨されるケースと、主治医への相談による見直しが求められる基準を以下に整理します。
- 服用の継続が強く推奨される方(メリットが出血リスクを明確に凌駕する):
- 過去に狭心症、心筋梗塞を起こし、ステント治療やバイパス手術を受けた経験がある方
- 非心原性脳梗塞(ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞)、一過性脳虚血発作(TIA)の既往歴がある方
- 抗リン脂質抗体症候群と診断され、医師から血栓症予防の指示が出ている不育症治療中の女性
- 末梢動脈疾患(PAD)により下肢の血流障害を指摘されている方
- 主治医と服用の見直しを相談すべき方(出血リスクが過大になる恐れがある):
- これまでに心筋梗塞や脳梗塞の発症歴がなく、高血圧や加齢のみを理由に長期服用している方(一次予防)
- 活動性の胃潰瘍や十二指腸潰瘍があり、頻繁に黒色便や胃の痛みを自覚している方
- コントロール不良の重度高血圧(収縮期血圧180mmHg以上など)を放置している方(脳出血の危険性が上昇)
- 高齢に伴い転倒の頻度が増加し、頭部打撲のリスクが極めて高い生活環境にある方
自己判断による突然の中断は、血小板の反応性が一時的に高まる「リバウンド現象」を招き、極めて危険です。服薬の要否に関する疑問が生じた場合は、必ず処方元の循環器内科や脳神経外科の専門医に相談してください。