物語の結末において、二人は「人間と自然の共生」という安易な妥協点ではなく、それぞれの持ち場へ戻る道を選びます。アシタカは「私はタタラ場で暮らそう。共に生きよう。会いにいくよ。ヤックルに乗って」と告げ、サンは「アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない」と返します。このラストシーン以降、二人がどのような未来を歩んだのかは多くの議論を呼んできました。
宮崎駿監督の構想や絵コンテ集の記述によれば、二人は形式的な結婚をして同居することはありません。しかし、それは決して破局を意味するものではなく、アシタカは約束通り頻繁に森へ通い、サンと逢瀬を重ね続けたとされています。人間界に属するアシタカと、森に生きるサン。互いのアイデンティティを尊重しながら魂で結びつく、現代の「別居婚」や「パートナーシップ」にも通じる先進的な関係性を築いたのです。
二人の絆を象徴する重要アイテムが、アシタカからサンへと手渡された玉(黒曜石)の小刀の首飾りです。元々はアシタカが故郷のエミシの村を発つ際、許嫁同然の乙女・カヤから「永遠にアシタカを想う証」として託された宝物でした。アシタカがそれをサンに贈った描写は、一見すると不義理に映るかもしれませんが、アシタカにとっては「自らの過去と決別し、命を賭けてサンを守る」という覚悟の証であり、サンにとってもアシタカを受け入れる決定的な契機となりました。