ウェブ上で散見される誤解のひとつに、「白ビール(ヴァイツェン)は苦味がなくフルーティーだから、ビールが苦手な女性向けの甘いお酒である」という言説がある。これは明らかな誤認だ。
本物のヘーフェヴァイツェン(酵母入り小麦ビール)は、人工的な香料や果汁を一切加えない。麦芽、ホップ、水、そして酵母のみで造られる純粋令(Reinheitsgebot)の精神を色濃く残している。あのバナナのような甘い香りは、酵母が過酷な発酵過程で生み出すフェノール類とエステル類の科学反応によるものであり、糖分としての甘味が残っているわけではない。むしろ、小麦特有の爽快な酸味(乳酸菌由来ではない、小麦由来の軽快な酸)が後口をキリッと引き締める。
また、温度設定のトラップも深刻だ。多くの日本人はビールを4℃前後のキンキンに冷えた状態で飲むことを好むが、ヴァイツェンの至福の香りを生み出す酢酸イソアミルは、8℃〜12℃前後のやや高めの温度帯で最も活性化する。冷やしすぎた状態で飲むと、せっかくの重層的なアロマがマスキングされ、結果として「水っぽくて薄いビール」という誤った印象を抱いてしまうのだ。